床矯正とは
床矯正とは、アゴを拡げて歯を並べる矯正方法で抜歯を行わない矯正治療法です。
床矯正は主にヨーロッパで行われた治療法で、アメリカの治療法を主とする日本では主流の治療法ではありません。しかし最近では、お子様の早期の不正咬合の治療や予防的あるいは抑制的な矯正処置に対して利用されている場合が多いようです。
具体的な方法としては、アゴを拡大する床矯正装置という取り外しが出来る装置をお口に入れて、アゴを少しずつ拡大していき、歯を並べていきます。
治療法について
治療方法は、どうするのですか?
装置は、入れ歯によく似た装置で、幼児でも簡単に取り扱いができます。
床装置の治療目的は…
- 萎縮した顎を正しい大きさに拡大します。
- 歯を正しい位置に動かします。
- 後退している下顎を前方に誘導し、移動します。
- 舌などの悪習慣の是正をします。
基本的には一方向しか移動できないので、 顎を拡げる装置、歯を押し出す装置といくつかの装置を組み合わせて治療します。 治療開始時期が早ければ早いほど治療が早期に終了します。
床矯正の治療は、装置の数で設定されています。
早期の治療開始ならば一装置で治療は終了します。
様子を見ていて症状が複雑になれば、いくつもの装置が必要になり、治療費用もかかります。
床装置の中にスクリューが装着されています。ヨーロッパでは200種類のスクリューがあります。
ネジを棒【キー】で巻くことで、スクリューが移動して、床が拡大して顎を拡げたり、歯を移動したりできるのです。
4才以上であれば治療は可能です
治療開始のタイミング
治療の開始はいつが最適でしょうか?
矯正治療において、12~15才からの治療開始がもっともいいといわれるのは、
抜く歯(第一小臼歯・前から数えて犬歯の次の歯)が生えていないからです。
この歯は、10才半~11才頃生えてきます。つまり、抜く歯が生えるのを待っているのです。歯が並ばない小さな顎に歯並びをそろえるのは当医院としては納得できません。
人間の器官に無駄はありません。歯を抜くことで、全身のバランスを崩す危険も恐いですし、特に子どもの場合は咬む刺激が減少することにより、顔の改善は期待できなくなるでしょう。
人の顔は、2回の発育する徒競走の時期があります
人間の顔の発育は、2回あります。1回目は、生まれてから6才までですから、生まれてから6才までのお子さんの顔は毎年変化します。でも小学生の間はあまり顔つきは変わりません。
歯が並べない顎は、1回目の顔の発育の徒競走に負けたのです。この時期の顎の発育が不良だったので、歯が並べない顎になり、顎が萎縮していたのです。
11才になる小学校5年生から顔が再び変化します。6才までに正しく発育できなかった顔を10才までに治して 11才からの徒競走には自分の力で発育させるのが大切だと話しています。
次の発育の開始は、11才からです。女の子は14才ごろ発育が終了してしまいます。
治療の目的は、歯が並べばいいのではありません。 良い顔に発育するための正しい咬む刺激が必要なのです。 発育不足の顎を10才までに機械的に治療して、 11才以降は自分の咬む刺激で『良い顔』を作ることが矯正治療の目的と考えています。 歯並びの問題は単純に顎と歯だけの問題だけではありません。
一生の顔の形に関わる大切な問題です。
治療開始は「おかしい」と感じた時が治療の時期です。
様子を見ていたら、発育不足の萎縮した顔のままです。
特に女の子は約14才で発育が終了してしまう子もいます。
「おかしい」と感じたら、様子を見ていないで早期に治療を開始しましょう。
後戻りしないためには?
治療後、歯が元の位置に戻ってしまうことがあります。
後戻りを起こさないために、2つの大切な期間があります。
第1の時期
歯を移動した後は、歯の根の周囲の骨が固まるまで歯を保定する必要があります。床装置をそのまま約6ヶ月装着します。装置は、夜間のみ装着します。リテイナー〔保定装置〕を装着する場合もあります。
第2の時期(恒久的な時期)
原因は、咬む機能が正しく働いていない場合や口の姿勢が悪かったり、 悪習慣が再発することが考えられます。 治療終了後も、咬合状態の定期検診は必要です。
歯科医師や患者さんは、歯並びが悪いと考えますが、体の機能から考えると、不正な機能にはそれなりに不正な歯並びで、体のバランスを保っているのです。歯並びだけ治しても、悪い機能のままでは、また元の悪い歯並びに戻ってしまいます。
これを後戻りといいます。
外観だけで満足してはいけません。
せっかく治した歯並びが、後戻りしないためにも不正な機能も治しましょう。
上の装置は、後戻りを防ぐ装置です。基本は、装置に頼らず、咬む機能の育成と維持が大切です。
外見的に歯並びがきれいになっても、機能が回復しなければ、歯並びは元に戻ります。
オクルーザーで機能の回復が確認できた時、または、より機能が安定した段階に移行した時点が本当の治療が終了した時です。
治療費について
早期に治療を開始すれば、装置の数も少なく費用も時間もかかりません
「矯正を始めるにはまだ早いので、様子を見ましょう」と言われることがあります。
通常の矯正専門医は、アメリカからの治療方法で処置しますので、第一小臼歯を抜歯することを前提とします。この歯が生える11才頃まで様子を見ています。歯が並べないのは、顎が萎縮しているからです。
放置していたら、顎は発育できません。特に反対咬合のケースでは、前歯がロックして、臼歯部をうまく使うことができません。機能障害の状態です。 早く機能障害の状態を取り除いて、健全な口腔機能を持たせて、顎の正しい発育をはかるべきです。
お母さんが見て、おかしい状態は、歯科医師の立場から見ても何らかの問題はあるはずです。
犬歯が生え変わる前に来院して下さい。
犬歯の位置を治すためには、臼歯を後方に移動したり、前歯を前に出したりするため費用と時間がかかります。どうか、様子を見ていて、手遅れにしないで下さい。
床矯正の装置
装置は、いつ装着するのですか?
早期に治療を終えたいのであれば、できるだけ長時間装置は装着しましょう。
食事、歯磨き、英語・国語・音楽などの発育障害を生じそうな場合は装置をはずします。
咬む力が、移動した歯をより安定した位置へ修正します。
咬む刺激を考え、食事の時は装置を必ずはずしましょう。
また、学校でいじめの問題にあったり、勤務中に支障のある場合は装置をはずしましょう。
少し治療時間がかかっても一日12時間以上装着していれば治療は可能です。
これより短い時間の装着においては、歯を抜く治療方法などに方針を変更せざるを得ないでしょう。
装置をはずしていると「後戻り」をして、装置がきつく感じる場合があります。
装置がきつくなる場合には、ネジを半回転巻き戻して装着し、30分後に元に戻します。
新たに回転する場合は、2~3時間後に処置します。
両手で装置をはずしましょう。片手ではずすと装置をとめているバネが金属疲労で折れてしまいます。バネがゆるくなり装置がはずれやすくなったら、バネを調整しますので、来院の予約をしましょう。
硬いせんべいを食べても痛くない…なぜでしょう?
それは、上顎の歯肉は厚いからです。床装置を上顎に装着しても痛いと感じることはありません。
ネジはいつ巻くのですか?
装置には、平行に拡がるタイプと扇状に拡がる2つのタイプがあります。
平行に拡がるタイプの装置は、ネジを90°回して0.2mm、
扇状に拡がる装置のタイプは、ネジを90°回して0.8mm拡大します。
歯を前方、後方に移動する場合は平行に拡がるタイプに準じます。
拡大は、一週間で45°ずつ2回巻くことを基本としています。
痛い場合、成人の場合は、一週間で30°ずつ3回拡大します。
上顎の平行タイプでは、痛くなければ一ヶ月から一日おき、毎日拡大していきます。
一週間で0.7mmの顎の拡大量がベストです。
つまり、上顎は3mmの拡大が可能です。
下顎の骨の構造は、上顎の骨と違って、一本の骨からできています。
また、口は食べ物を粉砕するところですから、上顎の歯肉は、 食物片が当たっても痛くないように厚くなっていますが、下顎の舌の下側の歯肉は食べ物が当たりません。
下顎の歯肉は薄くできています。
そのため下顎の拡大は、一週間で45°ずつ2回の拡大で一ヶ月で1mmの拡大が基準です。
治療は適切に拡大ネジを回すことです。
拡大しなければ、いつまでたっても治療は終了しません。
病気の時も装置を装着するのですか?
病気の時は装置をはずしましょう。
熱があって、苦しい時は装置をはずします。
無理することはありません。
長期間、装置をはずしていた場合、装置は当然適合しなくなります。
適合するまで、装置のネジを巻き戻します。
一日で、約90°巻き戻すことが可能です。
床矯正の利点です。
たとえば、一週間はずしていると約7回巻き戻せます。
巻き戻した7回は、病気が治ってから一日一日巻き直していきます。
まったく合わなくなったら、プラスティックの床の部分だけ交換します。
装置の手入れ方法は?
口の中は、バイ菌が繁殖して汚いところです。
床装置も、当然歯と同様に汚れます。
写真の装置は、まったく清掃していません。
口の中に無関心だとむし歯や歯周病になります。
矯正治療以前の問題です。
装置は「入れ歯」と同じ材質です。
市販の義歯洗浄剤を使用したり、ブラッシングの時に装置を歯ブラシで清掃しましょう。